2008/04/20 (Sun) 15:56:44 ◇時は早く、歩みは遅く

別の中隊に書類を持っていったら、代わりに渡された回覧板のバインダー一つ。

回覧板の内容に「もうそんな時期かー」と思いながらサインを書くと、次の人に回すべく廊下を歩く。

「ルクス少尉ー」
歩いていたんじゃ縮まらない歩幅を小走りで追い掛け、目の前の高い背中に声を掛けた。
「……………」
が。振り向いた表情は其処で止まり、縦長の瞳孔が見るのは、あたしの頭上を通り越した先。
微かに視線を彷徨わせるその様子に小さく溜息一つ。ぐいぐいとルクス少尉のコートの背中を引っ張って、漸く視線が下を向いた。
「ルークースーしょーいー」
「……………なんだ」
その言葉の後に略されたのが、「何か用か」なのか、それとも「お前か」なのかが大変気になる所だった(声の調子からはいまいち図れなかった)けれど、取り合えず服を掴んでいた手を離す。
「ねぇ、後ろから声掛けると、あたしの姿はルクス少尉から見えないのかしら？」
アカガネ少尉とかは後ろから声掛けても、まだ気付いてくれるのだけれど。
腰に手を当てて、「無視するなー」と上目遣いで睨んで見せれば、「…………そのつもりは無いが」と素っ気無い声。
「………視界に入らん」
「……………」
きっぱり淡々と答えてきたルクス少尉の背中に無言でぽすぽす拳を叩き付け（それでも同僚とはいえ年長者さんですから。力なんて入れてませんとも。ええ勿論っ。）ふてくされ半分に「此れでも平均身長越えてるのに」とぼやけば、頭上からは呆れた溜め息。
眉を寄せて顔を見上げてみても、淡々とした表情は変わらない。
「………で」
「？」
「…………何の用だ」
「ああ、そうそう」
手を叩いて「思い出した」と呟けば、「忘れていたのか」と言わんばかりに冷めた視線が上から注ぐ。
「はい、回覧板。執務室の方に持っていくつもりだったけど、見掛けたから丁度良かった」
手にしたバインダーを渡そうとし、彼の微妙な間にふと思いついて言ってみる。
「コレ、邪魔になるんだったら執務室に置いていくし、今目を通して貰えばあたしが次の人に回しに行くケド？」
「…………内容は」
「んー…設備点検による訓練施設の使用不可日の通知と…あぁ、それと経理部の方から、嘆願書めいた休暇届けの早期提出依頼が」
「何だそれは」と言いたげに、呆れながらも差し出された手にバインダーを渡し、通行の邪魔にならない様壁際に移動。
「５月の頭に連休があるからでしょ。毎回ギリギリに休暇届け提出する人が絶えないからって経理の方も大変みたいね」
バインダーに挟まった書類を眺めるルクス少尉の横で、壁に凭れて読み終わるのを待つ事にした。


（……ＧＷねー…）
視界の端で薄紫の長身を見る。
（……他の皆とか、連休はどうするのかしら）
普通に立っても、自分の頭は彼の胸に届くかどうか。
彼を見るには見上げるのが常で…、だから彼に気付かれずに表情を窺うのは難しい。
思い返せば、上を見ずに彼と話すのは彼が座って居る時ぐらいだったか。
（だからってだまーって顔見てたら変な奴だと思われるわよねー）


んー…、と壁の掲示物を眺めながらつらつらぼんやり考えていたが、最早慣れっことなった呆れを含んだ無表情な視線に顔を上げる。
「………おい」
「あ、終わった？」
「…………もういいか」
「うん。引き留めて悪かったわね」
手渡されたバインダーを受け取り、サインを確認して。

「あ、」

踵を返そうとしたルクス少尉の袖を掴んだ。
「………………」

……何してんのかしらあたし。
えー…と…

「あ、そうそう。ルクス少尉、今日のお昼は食堂？」
「…………多分な」
「そう」
「………何だ」
「んーん、それだけー。それじゃ、またお昼にでも」


「またね」とルクス少尉の腕を叩いて、さっきルクス少尉が向かおうとしていた方向と逆の方に歩き出した。
途中で次に回すアカガネ少尉の執務室に向かうには遠回りだと思い出したが、此処で戻ったら何か悔しいのでそのまま遠回りする事にして廊下を歩く。

（今日のお昼は…）

何かなー、と。
楽しみの気持ちを、無意識に献立への期待にすり替えて。

＋＋＋＋＋

ルクスさんとお名前だけですがアカガネさんをお借りしましたっ。

３日４日前から携帯でむつむつちまちま書いてたブツです。
GWのフラグを立ててみる…とかぶつぶつ。

しかしながらうちの娘はルクスさんを叩き過ぎじゃないか…？
えー本人は肩を叩きたいつもりですが、届かないのでどうしても腕が背中を叩いてしまうんですと言い訳してみます…(←
とりあえずツンデレではないと言い張ってみr(ry
……フレンドリィなつもりです。